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第二章 速記のイノベーションを促進した三種の神器

本章は、国際情報処理連盟IFIPインテルステノサイエンスコミッティー委員 兼子次生氏の執筆によるものです。


機械文明は、速記のイノベーションを支えてきました。諸説ありますが、速記者の三種の神器は、テープレコーダー、パソコン、インターネットと言えるでしょう。
太平洋戦争後、希少価値だった手書き速記者を補助する方策として、テープレコーダーは、現場で音声を記録しておき、のちに速記者が聞きながら速記符号で書き取り、反訳するという作業形態を可能にしました。これによって速記者へ速記の依頼がふえたのです。
パソコンが登場すると、それまで日本語ワープロで行われてきた反訳作業がパソコンで行われるようになりました。それによって発言ありのままの速記録が大変早く作成できるようになったのです。またICT(情報通信技術)の進歩は、インターネットの普及をもたらし、速記原稿の調査に役立つとともに、ネットを通じて発言音声を受け取ったり、完成した速記録を送ることができるようになり、今ではIT速記で数時間後に速記録を提供できる時代に入っています。それでは、これから三種の神器についてお話しましょう。

【録音技術】
(1)録音技術の進歩と速記

テープレコーダーのルーツは、デンマークのパウルセンの針金を磁性体に用いたワイヤレコーダー(1898年)に始まり、現代では半導体メモリに記録するデジタルレコーダーに変化しています。
 最初の録音技術では、音声の信号を溝の形に置き換える仕組みのレコードがありましたが、それは日本では会議の記録には用いられませんでした。その後、電話に見られるように音声を電気信号に置き換えて、それを磁気的に録音する技術が発達しました。速記界は、その後の技術開発で世界をリードするソニー、オリンパスなどメーカーから多くの恩恵を得ることができました。


速記界では1949年2月、第5国会の衆議院で日本電気製の磁気録音機「ワイヤーレコーダー」が復演用に初めて試用されました。「復演」というのは、一人前の技能に到達していない速記者が録音を繰り返し再生して正確に符号で速記し、速記録を作成する手法です。録音機が出現するまでは、ベテランが現場で速記した符号を読み返し、それを練習中の速記者が書き取って速記録の草稿を作成する復演が定着していました。


それに刺激を受けたかのように、東京通信工業(現在のソニー)は1950年オープンリール型のテープレコーダーを初めて製品化しました。そして参議院記録部では、翌年6月の第10回国会の末期に、東通工製のテープレコーダーを導入して、速記との併用による委員会における議事の録音に試用しました。参議院が導入する前年、衆議院はアメリカから「サウンドミラー」と呼ばれるテープレコーダーと速記機械(ステノタイプ)を輸入し、速記の機械化研究を行っていました。

テープレコーダー時代の始まりを受けて、民間速記界ではその実践利用に乗り出していきますが、初期の推進派速記者、高橋鉄雄は次のように書いています。


『ことに、近来の レコーダーの発達、とくに テープレコーダーの 発達普及は、ようやく、なが年、夢のように 過ごして来た 写言事業界も、ここに 180度の 大転換を、しなければならない ときが 来た ことは、もはや いなめない 事実であります』(原文どおり分かち書き)


高橋は戦前からの取り組みを回顧しているので、引用しましょう。


『わたくしが、この磁気録音機に 着目 いたしましたのは、すでに 戦争まえ 昭和3-4年ごろ、ワイヤー録音機に つきまして、録音速度の 20パーセント以上 おそく 再生をしても、十分 はっきりと聞きとりができましたので、カナタイプライターとの 結び合わせに よりまして、写言事務の 目的が 完全に という達し得られることを、かたく 信じたのであります。


そこで 昭和17年から、その実行を したいと 準備中、戦争に なりまして、中止の やむなきに いたったわけで ありますが、戦後、ようやく26年5月に 適当の 機械 2台を 得られましたので、その6月の 埼玉県議会に 速記と 一しょに 使ったのを 初めに、以来、すべての 写言事務には、2台、または3台のレコーダーを、必ず 一しょに 使うことにして おります。』


高橋は反訳にカナタイプを用いており、録音再生・タイプ入力という反訳作業形態を早くから実践していました。1953年、高橋はその発表会を開きました。

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