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第四章 インターネット時代の速記の将来像

本章は、国際情報処理連盟IFIPインテルステノサイエンスコミッティー委員 兼子次生氏の執筆によるものです。

 日本でインターネットが利用され始めたころ、その利用は一部の大学関係者に限られ、一般の人には別世界のものでしたが、今日の社会では電話のように身近な情報手段になっています。しかし、よく切れる刃物のようにすばらしい恩恵がある反面、国家の安全を脅かすほどの危険な面があることを忘れてはいけません。そのようなインターネットと速記の間にも、とても深いかかわりがあります。

 インターネットの前身は、1960年に発表された米国防総省高等研究計画局のARPANET(分散型コンピューターネットワーク研究プロジェクト)でした。カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)とスタンフォード研究所(SRI)が接続されたのは1969年秋でしたが、その年のうちにカリフォルニア大学サンタバーバラ校、ユタ大学が加わっています。

 その後、インターネットの通信規約(プロトコル)が今日のTCP/IPに切りかわり、日本でも1984年9月に慶應義塾大学、東京工業大学が接続、続いて東京大学が加わって、インターネットが使えるようになりました。

 1980年代後半からインターネットの商用利用が爆発的に広がり、今では日本でも10代~40代の9割以上がインターネットを使っていて、9,600万人の国民に普及しています。

ベテラン速記者の技能を見える化したICT

 インターネットの速記への貢献を見ますと、潜在需要の顕在化、記録品質の高度化、それに短納期化といったメリットがあります。次項に述べる納期の超短期化は夢の速記録を現実にするものですが、その前に、速記の工程で最も重要な作業の一つとして校閲などを含む整文という技術があります。

 整文というのは、話し言葉を書き言葉のルールに従って文書につくり上げていく際の技術体系です。

 速記録を作成する上で、話の意味をよく理解して、正しい表記をして、適切な区切りをつけたり、音声の特性をもとに表記法を選んだり、話し間違い、聞き間違い、未知語、初出語などの処理を行う必要があります。

 その調査には昔は辞書や新聞、雑誌、書籍、問い合わせなどしかありませんでしたが、インターネットが身近になってからは、難しい言葉の調査が簡単に行えるようになりました。

 その反面、複数の解がある場合、最も適切な言葉を選ぶ「眼力」がより求められるようになります。法律の条文が読み上げられたり、小説や古典の引用などが速記の中で行われると、インターネットが強力な助っ人になってくれます。デジタル時代にはベテラン速記者のすご腕をだれでもネットで手にすることができるようになったわけです。

 昔の速記実務は、仕事の依頼があると、仕事の概要や準備を前日までに行い、当日は現場へ30分以上前に出向いてマイクロフォンのセットと録音の確認、本番で速記ないし録音メモの作成を行い、帰ってからはテープのダビング、トランスクライビング(テープ起こし)、速記符号反訳、難読箇所の校正、調査、段落、句読点など文章化作業、文法的チェックなどを行って速記録を作成するものでした。そして速記録を完成できると持参して納品、請求書、納品書を渡して帰ります。最後に、入金を確認すると、一つの仕事が終わるわけです。

ICレコーダー

 しかし、現在では例えばテレビの生字幕作業を見ますと、放送局から大容量の高速専用回線で音声・映像データが同時に速記会社へ配信され、それを電子速記で入力反訳し、校正をへたあと、瞬時に放送局へ送り返して、放送局で画面上に字幕を合成して放映されます。

 急ぎの速記の場合も、同様です。テレビ生字幕の原型となる作業法が以前から行われています。生字幕ほどライブ性は求められない環境で始まっていますので、会議のアナログ録音をデジタル化して送る時代から、最近ではデジタル録音をそのままファイルとして速記者、速記会社へ送りますと、それを聞きながら速記録を作成して完成すれば、電子データの形で依頼先へ納品するという作業工程がとられる例もふえてきています。

 もちろん従来のように現場へ速記者が出向いて、速記符号を筆記したり、テレコで録音、あるいはICレコーダーで録音して、帰ってからパソコンで反訳する伝統的な作業工程も依然として行われています。

 インターネットを活用して録音の受け取り、調査、納品、集金まで行えるようになると、さらにハイレベルの速記サービスを提供できるメリットがあります。

超短納期の速記サービスが登場

 速記の分野でインターネットの利用が始まったのは、通信環境が徐々に整っていく1980年代後半からでした。序章時代のチャレンジでは、離れた拠点間の速記原稿データの送信に音響カプラという装置を電話の受話器に取りつけて行う時期がありました。デジタル信号をアナログの音に変えて送信するので、ピーピーという雑音が耳障りで、しかも送信速度が専用回線を使っても速くはありませんでした。

 遠くで行われる会議の音声を高い品質で経済的に送受信する方法が次第によくなっていきます。高速で経済的に通信できるISDN専用回線が登場したとき、東京の速記会社で会議現場と自社を結んで会場から音声を送り、受け手の会社ですぐさま速記して完成させて会場へ送り返す試みが行われました。光回線が普及し始めると、遠隔会議の速記録作成サービスは、距離と時間を乗り越えて時代のニーズにこたえていきます。

 アメリカでは早くから聴覚障害者のために遠隔ノートテークをパソコンで行うボランティア活動が生まれました。電話で音声を聞きながら、パソコンで打ち、聴覚障害者へ文字で伝えるというものですが、日本でもその後誕生し、東日本大震災のあと、全国のパソコン要約筆記ボランティアが大学生の受講支援をインターネットを用いて行いました。

 そのプロフェッショナル・バージョンとして2002年8月にデジタル速記システムが開発されています。振り返れば、草創期に、坂本正剛(故人)、津田彌生、吉川欽二らパイオニアによって「ワープロ速記」として生まれた発想が、日本の速記界に反訳革命を起こしました。その後、「パソコン速記」の概念が国会(参議院)で確立され、速記者によるバッチ処理体制が確立されました。

IT速記

 さらにインターネットの機能を活用して、デジタル速記、IT速記(大和速記情報センターの商標)へと進化しています。

 デジタル速記は音声、文字、あらゆるデータがデジタル信号として取り扱われる世界だと言えます。

 現場で音声はデジタルデータとして録音され、インターネット回線で入力センターへ送信されます。複数の入力オペレーターは会社、自宅どこからでも音声管理サーバから音声データを受け取って、パソコンにインストールされたトランスクライバーソフトで再生し、専用エディターで入力して反訳します。人海戦術で作成された、こま切れ状の反訳データは、直ちに管理サーバへ返されて文書として結合されます。その原稿を校閲のベテランが校正して、完成される流れです。一連の管理は速記会社で完全に行われ、会議後2時間後に速記録が納品される仕組みです。

 今日、アメリカ、ヨーロッパでの会議の音声をリアルタイムに日本で聞き、数時間後に議事録として完成する時代が訪れています。グローバル時代の情報革命が着実に進んでいます。その担い手は、ICTリテラシーを生まれたときから持っている若い人材です。

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